理事長就任のご挨拶    

 一般社団法人日本循環器病予防学会  
  理事長 岡村 智教 

(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学 教授)
  
 
 この度、2022年6月11日付で日本循環器病予防学会の第12代の理事長を拝命しました岡村智教です。浅学菲才の身にとってはたいへんな栄誉であると同時に、責任の大きさに今にも押しつぶされそうな重圧も感じています。
 「日本循環病予防学会」は、1966年10月に社団法人の認可を得た「日本循環器管理研究協議会(日循協)」を始まりとしています。日循協は、当時猖獗を極め、日本人の死亡原因の第一位であった脳卒中(特に脳内出血)とその最大の原因である高血圧の制圧という目的で設立され、当初から循環器病の予防制圧を目指す医師、保健婦・看護婦(当時の名称、現、保健師・看護師)、栄養士・管理栄養士、行政担当者、予防機関・団体担当者によって構成されていました。現在は臨床系の多くの学会で多職種共同での疾患予防が行われていますが、それを半世紀以上前に実施していた先駆けともいえる学会です。設立に関与された皆様の先見の明には本当に頭が下がります。
 もともとわが国では疫学研究を推進したり研究成果を健康政策や診療ガイドラインに反映させたりするためのスキルを持った人材が不足していました。そこで日本循環器管理研究協議会(現在の日本循環器病予防学会)と日本心臓財団が開始したのが現在まで続いている「日本循環器病予防セミナー」です。これまで1,300人以上の修了者が輩出され、臨床、公衆衛生・疫学、医療行政など様々な分野で活躍しており、また大学等の教育機関で後進の教育に従事されている方も多くいます。私も1989年の第2回セミナーの受講生で、大分県湯布院で楽しい5日間を過ごしたことを昨日のことのように覚えています。当時の受講生で今でも交流がある方も多くおられます。また厚生省(現、厚生労働省)の循環器疾患基礎調査参加者の追跡研究であるNIPPON DATAは、当学会に委託された老人保健事業推進費補助金で開始された研究です。NIPPON DATAは、現在も連綿と受け継がれて多くの研究成果を出しており、わが国を代表とするコホート研究に発展しました。さらに当学会と日本高血圧学会が共同で開始した「循環器疾患予防療養指導士」制度は、様々な職種が取得可能な、脳卒中や心臓病を予防するための専門資格であり、その後、日本動脈硬化学会、日本心臓病学会も加わった4学会共通の資格となって現在に至っています。
 私が当会に入会した時は、所謂、バブル景気の真っただ中で世の中にも余裕があり、また真の意味でのグローバル化も進んでいないため新興感染症も少なく、どこか余裕のある時代でした。しかしバブル崩壊後の長期的な経済の低迷、世界に類を見ない高齢化の進行、新興感染症の流入などわが国を取りまく環境も大きく変わりました。また高齢社会における国民皆保険の維持のための医療費適正化政策、研究者や医師とスポンサー企業との関わり方の見直し、ネット社会の進展、専門医制度の開始等で、多くの学会が今後の運営に困難を感じる時代となりました。前述のように当会設立当時は、多職種共同と減塩など生活習慣の改善の重視、健診制度制定に向けた行政への働きかけ等を行っていた当会の取り組みは非常に先進的でした。一方、近年は、臨床系の学会も次々と同様の展開を進めており、本学会の独自性が埋没しつつあるのも事実です。しかしこれは他の学会と競合するという負の側面だけでなく、療養指導士制度のように共同事業のきっかけにもなるという利点もあり、前向きに受け止めるべき側面もあります。
 今後の本学会の発展をどう考えていくかは非常に重要な点です。既に前理事長の時に本学会に「将来構想検討委員会」が設置され、今後の方向性について活発な議論が行われました。その中で、関連学会との関係(多くの学会がある中での本学会の立ち位置)、学術活動、社会医学専門医との連関、予防セミナーのあり方、各種団体との共同事業の進め方などについて検討が行われ、幾つかの方向性が示されています。今後は提示された案を継承して、一つ一つ具体化していくことがまず与えられた使命であると考えています。
 学会の立ち位置としては、まず当学会が、臨床上の予防医学だけでなく、ポピュレーションアプローチも含む社会医学系・公衆衛生系の研究や活動も担うものであることを明確に示す必要があります。「予防」という言葉は、今までは人間ドックなどの検査、最近では人口知能(AI)を使った予測を想起されるものになっていますが、本来は、日本国憲法にもあるように「健康で文化的な生活」をどう送るかというヒトの根源的な欲求を維持するための方略であり、環境要因や生きがいまで包括した広い概念であると考えています。単に健康であるだけでなく、健康を維持した上で何をしたいのかという視点が重要です。そのため大気や水など狭義の環境だけでなく、ライフスタイルや就業状況、法制度、市民の意識など広義の環境への働きかけをどう行っていくかを学会の目標として取り上げて行く必要があります。
 さらに従来から参画いただいている製薬系、医療機器系の企業・団体に加えて、食品や飲料系、スポーツ系、コンサル系など新たな分野からの賛助等を募り、さらに広域な視点で委託研究・共同研究に発展するような連鎖を構築したいと思います。また行政や公的団体との関連においては、健診制度や健康増進など今まで実績のある分野だけでなく、医療費の適正化や健康情報の活用、地方自治体における街づくりに資するような共同事業や研究事業を展開すべきと考えます。幸い本会には様々な組織に属する多くの会員の方がおられます。会員の皆様の英知を結集して、より未来志向の発展的な活動を推進して行く所存です。
 
 本学会は、多種職からなる学術団体として半世紀以上にわたって活動してきました。もともと職種の垣根を越えて議論できる風土があり、理事会構成員や学術総会の会長も様々な職種によって担われてきました。また現場感覚と学術研究の視点をうまくミックスさせて、多くの成果をあげてきました。この良き風土を残しながらも、変革の時代に生き残れて、かつ国民の最大多数の最大幸福に繋がるような成果を出せる学会にしていきたいと考えています。どうかよろしくご指導、ご協力のほどお願いいたします。

事業の概要

1.学術集会の開催
  日本循環器病予防学会学術集会:年1回例年6月に開催。
   <主なプログラム>
     特別講演、会長講演、シンポジウム、教育セミナー、
     他学会連携ジョイントセッション、YIA、一般演題、
     循環器病予防療養指導士の講座,市民公開講座など

2.学会誌・会報等の発行
  日本循環器病予防学会誌:年3回発行(5月、11月、3月)

3.啓発ならびに普及活動の実施
  日本循環器病予防セミナー
  メディカルスタッフ向けセミナーなど

4.表彰
  日本循環器病予防学会奨励賞

5.資格等の認定
  循環器病予防療養指導士

会員種別(正会員、名誉会員)および年会費

 (   )内は年会費
 ●正会員  医師会員(医師・歯科医師) (8,000円)
       医師以外会員        (5,000円)
       評議員           (12,000円)
       理事            (12,000円)
       監事            (12,000円)
       施設会員         (*下記参照
 ●名誉会員              (年会費免除)
 ●賛助会員                 (別途)
<施設会員>
 ◇登録可能施設  医療機関、健康管理機関、健診機関、保健指導機関、
 調剤薬局、保健医療行政等、本会理事長が認めた施設
 ◇登録会員の資格  医師、歯科医師を除く
 ◇年会費  1名:5,000円   以降、追加1名あたり +3,000円
 ◇学会誌送付  1冊 *追加を希望する場合は有料 1冊1,000円+送料
 ◇学会発表  登録者のみ可
 ◇学会誌送付  登録者に関わらず、登録人数までは参加可能
 ◇議決権  1事業者 1票


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